健康コラム

認知症における記憶障害(リハビリテーション科)

2016.06.22

近年、高齢者が増加している中で、今後とも認知症を呈している方が増えてくると思われます。認知症と言いましても、大きくわけて2つのパターンになります。脳血管性認知症、アルツハイマー型の認知症とわけられます。脳血管性認知症とは俗にまだら認知症と呼ばれており、部分的なところの能力が低下していますが、比較的保たれている部分があります。アルツハイマー型とは全般 的な知能低下があるといわれています。

今回、認知症の中でもよく見られる「記憶障害」に焦点をあて取り上げていきたいと思います。認知症症状が出てくると、それまでのいろいろな経験が記憶障害によって次第に薄れていきます。日常生活でのさまざまなできごとなどの個人的な経験の記憶(エピソード記憶)よりも今まで得てきた知識、思考の材料になる記憶(意味記憶)が低下してきます。  基本的に認知症における記憶力は再訓練をしても改善されないと考えられています。私たちは普段から時計や、カレンダー、新聞、テレビなどの数多くの情報を得ています。記憶障害になると、さらにこの情報源は重要になります。初期の段階でしたら、代償的な手段としてメモやカレンダー、スケジュール帳などの備忘の手段を用いることで、その人の今持っている最大限の能力を活かすことになります。

備忘の手段を考える際の必要なポイントをあげていきたいと思います。

  • 使いなれた道具を用い、すぐに手の届くわかりやすい場所におく
  • はじめから道具を多く使おうとしたり、多くの情報を記録しようとしない。
  • 時計はいつも正しい時間を指しておくようにする。
  • 今日が何日かわかるように、カレンダーの日付は毎日チェックする。
  • 目立つ場所に黒板などを置き、予定などを掲示し、この掲示を日課とする。
  • メモ帳に予定を記入し、これを目につきやすい場所において置く。メモ帳は何度も見るように、また予定がすめばそのたびにチェックするように指導する。
  • 手帳やメモが受け入れられない時は、1つの方法にこだわらず、その人 に適した道具が見つかるまでは、いろいろなものを確かめてみる。また、本人と相談しながら、受け入れられる方法を考えていく。
  • 家族や親しい友人の顔写真をその名前とともに掲示する。

ここで考えていただきたいのは記憶の改善ばかりにこだわらない点です。認知症症の初期の段階では、訂正することも必要になると思います。しかし、進行していくにつれて、訂正されたことにより混乱を生じる可能性があると考えられています。客観的な事実としては間違っていることがあったとしても、本人の中では本当の真実なのです。介護をする上でポイントとなるのは、「説得する」というよりも、本人と介護者の方が「納得する」という姿勢の方がお互い楽なのかもしれません。

よくあるエピソードを何点かあげながら、接し方を考えていきたいと思います。これはあくまでも一般 的に言われていることなので、個々に応じた臨機応変な態度が必要になると思います。

食後に「御飯まだ?」とおっしゃる方がいらっしゃいます。大脳の満腹中枢に障害がされることで満腹を感じないことと食事をしたことを忘れてしまうときに起こるのかもしれません。こういうときは、適当に話を合わせるなり、他の話に転換することで、食事の話題から気を逸らす方が良いと思います。それでもだめなら、「用意するからね」と話し、その間に脂肪分のない食物(例えば、生野菜など)を差し上げてみてはいかがでしょうか?  何度も同じことを尋ねることがあるかもしれません。これは記憶のあいまいさによる不安感が絶えずあります。まずは安心感を与えてあげてください。それでも同じことを繰り返し聞くようならば、紙に書いて質問された時にその紙を見るように仕向けることもできます。もしくは注意をそらすことも必要かもしれません。

他にも認知症に対する障害はさまざまで、介護者の方は負担が大きいかと思います。そのときはデイサービス・デイケアなどの社会資源をうまく利用したり、専門家と相談されたり、同じ悩みを持った家族の方が集まる「家族会」で認知症に関する知識や介護に関する知識を勉強されることもいいと思います。介護者の方だけで抱え込まないで、いろいろな人の助けを借りましょう。